里山再生の現場から

里山における放置竹林の活用事例とその可能性

Tags: 放置竹林, 竹活用, 里山再生, 地域活性化, 活動事例

里山における放置竹林の現状と課題

日本の里山では、かつて燃料や資材として利用されてきた竹林が、その需要の変化により手入れされなくなり、放置竹林が広がっている現状が見られます。放置された竹林は、周囲の森林に侵入して生態系を単純化させたり、地表に光が届かなくなり下草が生えなくなったりすることで、生物多様性の低下を招きます。また、根が浅いため土砂崩れのリスクを高める要因となる場合もあります。

このような放置竹林の拡大は、里山の健全な維持管理における喫緊の課題の一つです。しかし、この「課題」である竹を「資源」として捉え、積極的に活用することで、里山再生の新たな道が開ける可能性があります。

竹の多様な活用方法とその事例

放置竹林の整備で発生する竹材は、様々な方法で活用することができます。地域によっては、これらの活用を通じて里山活動に新たな価値を生み出し、担い手確保や地域活性化に繋げている事例も見られます。

1. 竹炭・竹酢液の生産

竹を炭化させることで、竹炭や竹酢液を得ることができます。竹炭は、土壌改良材、水質浄化材、消臭剤など、多岐にわたる用途があります。竹酢液は、農業分野での病害虫対策や、お風呂に入れてリラックス効果を得るなど、様々な活用が可能です。

地域の里山活動団体が、簡易な炭焼き窯を設置して竹炭生産に取り組む事例があります。伐採した竹を運び込み、一定の温度と時間で炭化させる作業は、比較的少ない人数でも実施できます。生産した竹炭や竹酢液を地元の農産物直売所やイベントで販売することで、活動資金の一部に充てたり、里山活動への関心を高めたりすることに繋がります。竹炭作りは専門的な知識や技術が必要ですが、研修会なども開催されており、学びやすい分野と言えます。

2. 竹パウダーとしての利用

伐採した竹を粉砕し、竹パウダーとして利用する方法も広がっています。竹パウダーは、発酵させて堆肥の材料として使用することで、農地の土壌改良に効果を発揮します。竹に含まれるミネラル分が土壌を豊かにし、作物の生育を促進します。

また、畜産農家では、竹パウダーを家畜の敷料として利用することで、糞尿の発酵を促進し、悪臭の軽減や良質な堆肥生産に繋げる取り組みが行われています。竹を粉砕するためにはチッパーシュレッダーなどの機械が必要になりますが、一度に大量の竹を処理できるため、効率的な整備と資源化を両立できます。地域の農家や畜産農家と連携し、竹パウダーを供給する活動は、里山活動と地域産業を結びつける好事例となります。

3. 建築・工芸用資材としての加工

竹は古くから建築や工芸の材料として利用されてきました。強度がありながら軽量で加工しやすいため、柵やベンチ、簡単な構造物の材料として里山整備の現場で活用できます。また、竹細工や竹かご、照明器具など、工芸品として加工することで、竹に新たな価値を与え、販売することも可能です。

竹材として利用するためには、適切な時期に伐採し、油抜きや乾燥といった処理が必要です。伝統的な竹細工の技術を習得することは容易ではありませんが、里山活動の一環として竹を活用した構造物作りや簡単な工芸品作りを体験するワークショップを開催することは、参加者の関心を引き、里山活動への新たな担い手を取り込むきっかけとなり得ます。

4. バイオマス燃料としての利用

竹は成長が早く、持続的に収穫できるため、バイオマス燃料としても注目されています。チップ化やペレット化することで、ボイラーや発電の燃料として利用できます。特に、地域内で発生した竹を地域内の施設(温泉、工場、農業ハウスなど)の燃料として利用する「地域内経済循環」の仕組みを構築する取り組みは、環境負荷の低減と地域経済の活性化に繋がります。

竹を燃料として利用するためには、破砕・乾燥・運搬といった工程や、受け入れ側の設備が必要となります。初期投資や維持管理のコストが発生しますが、規模によっては安定的な竹材の利用先を確保し、里山整備を持続可能な活動にする可能性を秘めています。エネルギー分野に関心を持つ専門家や企業との連携が鍵となります。

竹活用を進める上での課題と工夫

竹活用は里山再生に大きな可能性をもたらしますが、いくつかの課題も存在します。最も大きな課題の一つは、伐採・搬出・加工といった一連の作業にかかる労力とコストです。特に、急斜面や奥まった場所にある竹林からの搬出は、高齢化が進む里山活動の現場では大きな負担となります。

この課題に対しては、以下のような工夫が考えられます。

まとめ:竹活用が拓く里山再生の未来

里山における放置竹林は確かに課題ですが、竹を多様な形で活用することで、それは単なる厄介者ではなく、里山再生のための貴重な資源となり得ます。竹炭、竹パウダー、資材、バイオマス燃料など、様々な活用方法があり、それぞれが里山の環境改善、地域経済の活性化、新たな担い手の確保といった側面に貢献する可能性を秘めています。

竹活用への取り組みは、単に竹を消費するだけでなく、竹林の適切な管理を促し、健全な里山の生態系を取り戻すことにも繋がります。また、竹を加工し、製品として価値を生み出す過程は、参加者に達成感をもたらし、活動の継続意欲を高めます。他の地域での成功事例を参考にしつつ、自分たちの地域の状況に合わせた最適な竹活用方法を見つけ出し、実践していくことが重要です。

課題である放置竹林に、新たな視点と工夫で向き合うことは、これからの里山再生を力強く推し進める一歩となるでしょう。