里山再生の現場から

里山での土壌保全と水源涵養:活動現場での具体的な方法

Tags: 里山再生, 土壌保全, 水源涵養, 現場技術, 活動手法

はじめに

里山再生の活動は、単に荒れた山に手を入れるだけではなく、その土地が本来持つ機能を回復させ、維持することを目指しています。その中でも、健全な土壌を保ち、豊かな水を育む水源涵養機能の維持・向上は、里山が地域社会に提供する重要な恵みの一つです。雨水を一時的に蓄え、ゆっくりと地中に浸透させて清らかな水として下流に供給する里山の能力は、地域の水資源を守り、渇水や洪水といった災害リスクを軽減する上でも極めて重要です。

本稿では、里山活動の現場において、土壌保全と水源涵養に繋がる具体的な取り組みや技術についてご紹介いたします。経験を積まれた活動家の皆様が、日々の活動に新たな視点を取り入れたり、その活動の意義を再確認したりする一助となれば幸いです。

里山の土壌と水源涵養の仕組み

健康な里山の土壌は、落ち葉などの有機物が豊富で、多様な生物の働きによって団粒構造が発達しています。この構造により、雨水が地中に容易に浸透し、土壌や地下に蓄えられます。蓄えられた水は、時間をかけて湧水や小川として流れ出し、下流の生活や農業用水、生態系を潤します。森林の根は土壌をしっかりと掴み、雨による表土の流出を防ぐ役割も果たします。

しかし、手入れが放棄された里山では、特定の樹木が過密になり光が地面に届きにくくなったり、下草が少なくなったりします。これにより、健全な土壌構造が失われやすく、雨水が地表を速やかに流れ下り、表土の流出や急激な河川流量の増加を引き起こす可能性が高まります。

現場でできる土壌保全と水源涵養の具体的な活動

里山活動で行われる様々な作業は、意識することで土壌保全や水源涵養に繋がります。ここでは、具体的な活動手法をいくつかご紹介します。

下草刈りと表土の保護

過度な下草刈りは地面が乾燥しやすく、表土流出のリスクを高めることがあります。一方で、全く手入れをしないと特定の植物が繁茂し、他の植生の生育を妨げたり、地面が露出したりする箇所が出る可能性があります。

間伐・枝打ちと健全な森林構造の維持

適切な間伐は、地面に光を届け、多様な下草や低木の生育を促します。これにより、様々な深さに根が張り、土壌の保持力が高まります。

簡易な土留め工や段差工

特に沢沿いや崩れやすい急斜面など、土砂流出のリスクが高い箇所では、人力で設置可能な簡易な土留め工や段差工が有効です。

これらの工法は、あくまで自然の力を補助するものであり、過大な構造物はかえって生態系や景観に悪影響を与える可能性があるため注意が必要です。

落ち葉の堆積促進と土壌生物の保護

健康な里山の土壌は、豊富な落ち葉と多様な土壌生物によって維持されます。落ち葉が分解される過程で、土壌は栄養分を得て、保水性や通気性の高い団粒構造が作られます。

活動の成果と意義

このような土壌保全・水源涵養に繋がる活動は、すぐに目に見える大きな変化をもたらすわけではありません。しかし、数年、数十年といった長期的な視点で見ると、その成果は確実に現れます。

といった変化が観測されることがあります。ある地域では、継続的な里山整備の結果、かつて枯れていた沢から再び清らかな水が湧き出し始めたという報告もあります。別の地域では、間伐材を使った土留めにより、下流の農地への土砂流入が大幅に減少した例も知られています。

これらの成果は、活動を続ける皆様の努力の証であり、地域社会への貢献でもあります。これらの変化を観察し、記録していくことは、活動の意義を共有し、新たな担い手へと繋げていく上でも重要な要素となります。

おわりに

里山での土壌保全と水源涵養に向けた活動は、地道でありながらも、地域の自然環境と暮らしを守る上で欠かせない取り組みです。ご紹介した手法は一部ですが、日々の活動の中で、山の土や水がどのように変化しているか意識を向けていただくことで、新たな発見や工夫が生まれる可能性があります。

体力的な負担が大きい作業もありますが、共同での作業や、道具の適切な活用、無理のない計画を立てることなどで、安全に活動を継続することが可能です。先人の知恵に学びつつ、新しい技術や知識も取り入れながら、それぞれの地域に合った方法で、豊かな里山を未来へ繋いでいくことが期待されます。

本稿が、皆様の里山活動の一助となり、土壌や水といった里山の基盤が持つ重要性について改めて考える機会となれば幸いです。