里山での木材・資材運搬の知恵:現場で役立つ簡易技術と工夫
里山活動における運搬作業の課題
里山での活動において、伐採した木材や運び込む資材の運搬は避けて通れない重要な作業の一つです。しかし、この運搬作業は体力的な負担が大きく、活動を継続していく上で課題となることも少なくありません。特に、活動メンバーの高齢化が進む地域では、いかにしてこの運搬の負担を減らすかが、活動の継続性を左右する鍵となります。
里山の現場は平坦ではなく、斜面や不整地での作業が多くなります。このような場所で重い荷物を安全かつ効率的に運ぶためには、工夫が必要です。この記事では、大規模な機械を使わずとも、現場の知恵や簡易な道具、少しの工夫で運搬作業の負担を軽減する方法についてご紹介します。
なぜ運搬作業の効率化・省力化が必要なのか
里山活動の目的は多様ですが、多くの現場で間伐材の搬出や、活動に必要な資材(苗木、道具、昼食、時には土嚢など)の運搬が発生します。これらの作業は:
- 体力的な負担が大きい: 重いものを持ち運ぶ、不安定な足場で作業するといった身体的負荷が高い。
- 時間を要する: 運搬に時間がかかると、他の重要な作業に割ける時間が減ってしまう。
- 安全上のリスク: 不慣れな場所での運搬は転倒や滑落、落下物などの危険を伴う。
これらの課題を克服し、より安全に、より長く活動を続けていくためには、運搬作業の効率化・省力化に向けた具体的な取り組みが求められます。
現場で役立つ簡易な道具と技術
高価な林業機械や重機を導入することが難しい場合でも、身近なものや比較的安価な道具を活用することで、運搬の負担を減らすことが可能です。
1. 手作業を補助する道具
- 背負子(しょいこ)や運搬用リュック: 短距離の運搬や、狭い場所での移動に有効です。体にフィットし、重心を安定させられるものを選ぶと負担が減ります。
- ソリや台車: 平坦な場所や緩やかな傾斜であれば、ソリや車輪付きの台車が有効です。特に雪がある時期や、地面が固い場所ではソリが役立ちます。簡単なものは廃材などを活用して自作することも可能です。
- 滑車(かっしゃ)とロープ: 重いものを引っ張り上げる、あるいは下ろす際に、滑車を使うことで小さな力で動かすことができます。木の枝などを支点にする場合は、しっかりと強度を確認することが重要です。
- レバーホイストやチルホール: 重量物を少しずつ移動させる際に便利な道具です。ワイヤーやチェーンを使って引っ張り、テコの原理やラチェット機構で少しずつ巻き取ります。根っこを抜く、倒木を動かすといった作業にも応用できます。
2. 地形を利用した搬出
- シュートや滑り台: 木材を斜面の下に運びたい場合、丸太や角材などを組み合わせて簡易的なシュート(滑り台)を作る方法があります。摩擦を減らす工夫をすると、よりスムーズに滑らせることができます。安全確保のため、末端部での受け止めや、作業員の配置には十分な注意が必要です。
- コロ: 短い丸太やパイプを木の根元などに置き、その上を滑らせるようにして転がして運ぶ方法です。原始的ですが、比較的手軽にできる方法です。
3. 少し高度な簡易設備
- 簡易モノレール: 急斜面など、他の方法での運搬が困難な場所では、簡易的なモノレールシステムを設置する事例も見られます。レールは単管パイプなどで作り、動力は小型のエンジンや電動ウインチを使用します。設置には技術と費用がかかりますが、長期的な活動においては有効な手段となり得ます。安全基準を満たし、定期的な点検が欠かせません。
- 架線(かせん)集材: ワイヤーロープを谷越しや障害物の上空に張り、滑車を使って木材を吊り下げて運ぶ方法です。簡易なシステムであれば、比較的安価なウインチやロープ、滑車で構築可能です。ただし、設置場所の選定、ワイヤーの張り方、安全な操作には専門的な知識や経験が必要です。
運搬ルートの計画と整備
どのような道具や技術を使うかに加えて、運搬ルートを事前にしっかりと計画し、整備することも非常に重要です。
- ルートの選定: 傾斜が緩やかで、障害物が少なく、足場が安定しているルートを選びます。少し遠回りになっても、安全で体力負担の少ないルートが結果的に効率が良いこともあります。
- 障害物の除去: ルート上の倒木、大きな石、ツル植物などを事前に除去し、歩きやすく、荷物が引っかかりにくいように整備します。
- 足場の整備: 必要に応じて、段差をなくしたり、ぬかるんだ場所に足場板を置いたりするなど、安全に作業できる足場を確保します。
事前の計画とルート整備を行うことで、現場での作業中の迷いをなくし、事故のリスクを減らし、スムーズな運搬を実現できます。
安全な運搬作業のために
どのような運搬方法を採用する場合でも、安全確保が最優先です。
- 複数人での作業: 重量物の運搬や危険を伴う作業は、必ず複数人で行い、互いに声をかけ合いながら進めます。
- 無理をしない: 自分の体力や技術レベルを超えた作業は行わないようにします。休憩をこまめに取り、疲労が蓄積する前に作業を中断することも重要です。
- 保護具の着用: ヘルメット、安全靴、手袋など、必要な保護具は必ず着用します。特に木材の転がり落ちや落下には注意が必要です。
- 道具の点検: 使用するロープ、ワイヤー、滑車、ウインチなどの道具は、使用前に必ず点検し、損傷がないか確認します。
まとめ
里山での木材や資材の運搬作業は、活動を続ける上で避けて通れない課題ですが、体力的な負担を減らすための様々な知恵や工夫が存在します。高価な機械がなくとも、簡易な道具の活用、地形の利用、そして事前のしっかりとした計画とルート整備によって、運搬作業をより安全に、より効率的に行うことが可能です。
ここでご紹介した技術や道具は、あくまで一例です。それぞれの現場の状況や、活動グループのスキル、予算に合わせて最適な方法を検討し、試行錯誤を重ねていくことが重要です。他の地域で活動する団体がどのような工夫をしているか、情報交換することも新たな発見に繋がるでしょう。運搬の負担を軽減し、里山での活動を長く、そして楽しく続けていきましょう。